第15回 年賀状思い出大賞

2023.12.15

佳作5 石田 光 様
「旧友からのメッセージ」

 「年賀状、送ってもいい?」昨年末、メッセージアプリに突然届いた文面に、私は驚いた。送り主は中学校の同級生。私が高校進学で地元を離れてからは、かれこれ五年以上会っていない。
 「いいけど、どうしたの?」「なんか、送りたくなって」「でも、年賀状を送って良いかをメッセージアプリで聞くのは本末転倒じゃない? 笑」「たしかに 笑」

 そんなやりとりをしているうちに、私の顔はいつの間にか綻んでいた。疎遠になったと思っていた友人との縁がまだ繋がっていたことが、少なからず嬉しかったのだ。
 私は、当時住んでいた住所と郵便番号をそらで口にする。よどみなく言い切れた。今年からまた年賀状を出してみるのも良いかもしれないな、と心が温かくなるのを感じた。

佳作6 平 じゅん 様
「かわいい未完成の年賀状」

 幼稚園児の娘宛に年賀状が届いた。差出人は昨年他県へ引っ越した、仲の良かったお友達。宛名面を見ると、一生懸命書いたのだろう、大きな平仮名で「○○けん ○○し ○○二ちょうめ 十の○○ばんち ちゃいろい二かいだてアパート 二〇一ごうしつ ○○さま」と書かれていた。
 賑やかに彩られた通信面の隅には、お母さんの文字で「娘の記憶頼りなので、住所が不確かでごめんなさい」と書かれていた。そういえばお友達と一緒に「私たち、家は違うけど、同じ二〇一号室なんだよ」と教えてくれたことがあったな、と思い出した。家の場所も、我が家の前の道を園バスが走るので、きっとバスの中で娘がお友達に「あれがうちだよ」と教えていたのだろう。

 子供の記憶を頼りに住所を調べてくれたお母さんと、未完成の住所にも関わらず年賀状を配達してくれた郵便屋さんに感謝しつつ、娘と返事を書いた。
 あれから五年。年賀状から始まった娘とお友達の文通は、今も続いている。

佳作7 益田 彩羽 様
「冷蔵庫に貼られた年賀状」

 私は国語の授業で、祖父母に宛てた年賀状を書いた。全部手書きの年賀状。
 年が明け、祖父母のもとに私の年賀状が届いた。祖父母は届いた年賀状を何度も読み、冷蔵庫の見えるところに大事そうに貼った。
 その年、祖父は帰らぬ人となった。急な出来事で、とてつもなく悲しくて、寂しくて、もっとこうしておけば良かったと後悔することも多かった。

 荷物の整理のために、祖父母の家に行った。そこには、私の年賀状が冷蔵庫に貼ってあった。それを見た私は、ぐっと何かを得たような気がした。暗闇の中に、ぼっと明かりがつくように。それは、祖父が私の年賀状を何度も何度も読んで、大切に思ってくれていたことが伝わったものだと感じた。私が送った年賀状。同じ年賀状からお返しをもらった気分になった。私はあの時、年賀状を書いて良かったと思えた。
 その年賀状は、二年経った今も冷蔵庫に貼ってある。

佳作8 原田 裕一 様
「精一杯の年賀状」

 「あんな子いたっけ?」中学一年生の運動会。よそのクラスの列に、その子は並んでいた。「転校生らしいぜ」とクラスメイトが教えてくれた。
 二年生で同じクラスになれたのに、話しかける勇気が出ない。迎えた年の瀬。なんとかきっかけを作ろうと、思い切って年賀状を出すことにした。どう書いたら良いのか散々悩んだ末に「あけみましておめでとう」と照れ隠しの駄洒落を書いて送った。唐突で滑稽だったが、当時はそれが精一杯だった。

 数日後、彼女から届いた年賀状には「お餅を食べ過ぎて、はらだを壊さないでね」と書かれていた。思わず走り出したくなったのを覚えている。ところが、このやり取りを彼女の友達に知られてしまい、とうとう次の一歩が出せずじまい。三年生で違うクラスになり、やがて卒業。別々の高校になった。
 今でも年末になると、多感で傷つきやすかったあの頃を、苦笑混じりに思い出す。