インタビュー 柘植芳文参議院議員(総務副大臣)

2023.08.20

 郵政民営化から間もなく丸16年――。10月から17年目に突入する。激動に次ぐ激動の約20年の間に地域社会も激変した。柘植芳文参議院議員(総務副大臣)は「当時、誰も予測できなかったスピードで進む人口減少と少子高齢化で悲鳴を上げているのは地方だけでなく、都市部含む自治体だ」と指摘。「『誰も見捨てない社会』を実現する公共サービスの在り様を国として検討する時期だ」と強調する。さらに「公共サービスの枠組みに、郵便局ネットワークとしての公共資産と郵便局長の地域社会における人的資本を組み合わせ、魅力あふれる郵便局の創造とともに、郵政事業の在り方を真剣に議論し、日本の将来を見据えた地域社会を創らなければならない」と展望した。

民営化17年目、制度改正の検討へ

 ――マイナンバーカードの交付が郵便局でできるようになった意義とは。
 柘植議員 改正マイナンバー法に伴う郵便局事務取扱法の一部改正により、各自治体の意向によって郵便局でできるようになった交付事務は、公権力を持つ方にしかできなかった〝本人確認〟に風穴を開けた。大きな意義がある。
 今回をきっかけに、郵便局が行政事務の間口をどう広げていけるかが勝負どころと考える。
 首長の皆さんも郵便局に業務委託したい思いはあるが、日本郵便に支払わなければならない事務手数料等が財政面での課題になっている。
 今年度、総務省は補正予算による交付税等の措置で自治体を支援したが、国が自治体をサポートする税の仕組みや、別枠での安定的な恒久財源措置が必要になる。
 日本郵便もボランティアでなく、一定の収入を得なければ行政事務受託も永続性がないが、民営化法第7条の二に明記されている公益性や社会貢献という郵便局の使命を果たす重要な仕事と考える。
 こうした観点からしても、自治体との連携強化は日本郵政の掲げるビジョンでもある、お客さまと地域を支える「共創プラットフォーム」との整合性が図られるものと考える。
 郵便局ネットワークの必要性は過疎地だけではない。都内でも高齢化率は非常に高く、外へ出られない方も多い。医療も介護も課題となっている。
 郵便局ネットワークは全国あまねく公平に配置されているところに大きな価値があるのだから、地域性と同時に郵便局として総合的に何ができるかも考えていかないといけない。

 ――柘植先生は以前、郵政政策部会で、ラ・ポストの事例を出されて、公共サービスを継続できる形を日本もつくるべき、と発言されましたが。
 柘植議員 誰もが同じように福祉等の公共サービスを公平に受けられるようにすることがユニバーサルサービスであり、フランスでは公共サービスの大枠の中にユニバーサルサービスが入り、突出しているわけではない。
 日本も自治体と郵便局の業務提携等は公共サービスの枠に入れた方がよいが、日本の場合は公共サービスとユニバの枠が非常に曖昧であり、国として公共サービスの在り様を検討し、「誰一人取り残されない社会」づくりのためにも、どこで誰が公共サービスを提供するかをもっと明確化し、財源措置等の確立を検討すべき時期にきていると考える。
 10年ほど前は全国で金融機関がない自治体数は24~25程度だったが、農協や銀行の撤退で年々増え、今や40自治体を超えた。公共サービスという大枠の中に、ユニバーサルサービスとして「郵便局ネットワーク維持」も入れて、過疎地等でも金融や郵便・物流をしっかり享受できる仕組みをつくった方がよい。
 フランスやドイツなどは、公共サービスの提供に当たっては税の免除等さまざまに手を打っている。日本も現状のままでは無理があって、郵政事業に携わった経営者の方々には、方向性の定まらない事業の在り様により16年間ご苦労を掛けてきた。
 国が検証し、郵便局に依頼したい行政事務等を明確にして、そこに一定の予算を付け、ネットワークを守る。本来はユニバーサルサービス義務が課された郵便局を減らすなどはあり得ないことだが、そもそも日本にはそうした状況を検証するところがない。欧州各国は検証する規制委員会等が設置され、チェックしている。
 民間企業は収益一辺倒にならざるを得ないため、手を出せない津々浦々の隙間地域においても、絶対に必要な公共サービスを補完する役目を日本郵政グループが担うのならば、国も法担保を含め積極的に支援するのが筋だ。

 ――地方自治にとって郵便局とはどのような存在になりますか。
 柘植議員 自治体と旧郵政省はさまざまな形で連携してきた深い歴史がある。自治体から見れば、郵便局は今でも準公共的な存在だと思う。郵便局としては、自治体と連携して住民サービス行政の補完的な役割を果たすことは必要であり、その地域に住まう住民の方々に「郵便局の必要性」という存在価値を示す大切な生命線になる。
 だから、包括連携協定を締結したことで満足するのではなく、どういう形であれば住民の方々に喜ばれ、自治体行政にプラスになったかを精査しながら進まなければいけない。締結で完結ではもったいない話であり、双方に不信感を生じさせない努力をすべきである。

局長の地域人脈を新ビジネスの創造へ

 ――地方創生は三事業と異なり、頑張っても会社の評価基準にないため、成果も見えにくいとの声を耳にしたことがあります。
 柘植議員 郵便局の仕事は、地方創生というよりも地域創生がふさわしいと思っている。民営化後、日本郵便は届け出さえすれば、どのようなビジネスをやってもよいことになっているが、監督官庁も異なる貯金、保険の手数料を収益源とする旧来の形から抜け出さないまま、新しいビジネスモデルを描き切れず今日に至っている。
 地域性という強みを生かしたビジネスはごく少数にとどまり、ほとんどできてこなかった。エリマネ局長が持つ地域とのつながりという人的資産と、地場産業をうまく組み合わせていけば、面白いものができてくるはずだ。
 この地域は農業、別の地域は漁業など、うまく掘り起こして、グループ全体で人的・物的資産のもとでビジネス化すべき。新たな設備投資以上に、すでに持っている価値をもっともっと生かしてほしい。
 諸外国では、郵便は公共サービスの一環として国が大きく関与し、本体を助ける会社をM&Aにより経営を安定させている。日本も、大手に限らずともM&Aで傘下に入ってもらい、日本郵便の収益を上げられる構図をつくらなければ、協業も成功の日の目を見るのは大変だろう。
 日本郵便が苦手とするクール便を佐川急便やヤマト運輸に求めるのもよいが、協業で日本郵便として何をつかみ取るかの戦略が見えてこない。大手企業との共創プラットフォームの構築に、多額の資金を使うパターンを経営陣のみの判断で進めてこられたが、成功しない際にリスクは国民にも影響する。
 チェックし、アドバイスをする機関が必要だ。総務省もそうだが、民営化委員会を改装し、そういう権限を与えるべきではないか。
 日本郵政、日本郵便のビジネスは、公共性と収益性と2本立て。みまもりサービスも、買い物サービスも、空き家調査も非常に重要だが、公共性を追求するものは、もうける事業になりにくい。
 収益性に重きを置いた新しいビジネスとして、例えば、都市部ではごく一部の単マネ局でやっている食品や文房具で全国の名品を取り寄せての販売を、小規模な局単独では難しいため、3~4局一緒に収益を上げられる構造をつくるのも一つの手だと思う。
 過疎地を中心とする7割の赤字局でも、収益を上げられるような明確な方針も、知恵を絞って打ち出さなければいけない。ただし、全国の郵便局が金太郎あめのような体制では、各局の魅力や持ち味をつぶしてしまう。個々の局が、それぞれの地域に合った特色を満載できる体制を創っていただきたい。

 ――窓口社員の方は「コンビニに行った方が、手数料が安いです」と教えてくれ、ありがたいのですが、どこか寂しさも感じるとの声も聞きます。
 柘植議員 もはや、手数料の高低如何を超える魅力満載の郵便局になるしかない。昔は、冬に地域の園児に来てもらっての餅つき大会なども地域からの信頼感や親密感の基礎になっていた。
 近年は郵便局の個々の施策もほとんどなく、お客さまとしては面白くないだろうし、会社もそのための予算も振り分けていない。活気ある郵便局を取り戻さなければいけない。
 もともと郵便局に足を運ぶお客さまは「今月はこういうことをやっている、来月はこんなことをするのか」と楽しみにしていた。年中イベントなしではお客さまは減少し、来局しても窓口に来ず、ATMだけで帰られる。書類は、コンビニで処理する。
 郵便局に行けば地域の情報が分かり、社員が温かい声を掛けてくれることを楽しみにされている。楽しみが奪われてしまえば、行かなくなるのは当然。
 打開するには会社も、個別の局も工夫を凝らし、「あの郵便局があるから、この地に住み続けたい」と思ってもらえる郵便局にしていくしかない。
 ゆうちょもかんぽも別会社のため、局窓口で勝手に金融商品の販売戦略ができない。郵便局だよりにも「かんぽ生命の新しい学資保険が出ました」と紹介するには、かんぽ生命のリーガルチェックが必要となり、それがないとコンプラ違反となり、対応できない。現場としては何もできなくなり、〝待ちの姿勢〟が日常になる。
 こうしたことは日本郵便で、ゆうちょ、かんぽの営業において9割を占める営業力があるにも関わらず、製販分離方式がとられていることは理解に苦しむ。
 手数料に依存する体質を打開するには、自社商品として貯金や保険が販売できる環境整備を急ぐべき。
 いわゆる製販一体方式が、来客者が減る営業力低下、全体の収益が落ちて戻れなくなる危険性を打ち破るための打開策となることを経営陣が自覚し、製販分離手法から、金融2社が日本郵便に製販一体手法に舵を切る形に踏み出すことを強く期待するものである。
 そのことが、それぞれの地域にあった特色ある郵便局の創造を生み出し、窓口社員が伸び伸びと営業できる体制であることに気付いてほしいものである。

 ――改正郵政民営化法を見直す動きが出ていますね。
 柘植議員 10月に民営化丸16年で、17年目に入るが、民営化当時と今の地域社会の変化は、誰も想像できないほど大きく変化したため、検証すべき時期だ。
当初の民営化法は金融2社の株式100%を売る期限を定めた法律だった。
 改正法では「処分を目指す」として期間は外されたが、奥底にある主旨は変わっていない。全部売った後に日本郵政が買い戻して、代理店契約を結ぶなどという甘い考えは市場経済では通用しない。
 自民党の先生方からは、例えば、ゆうちょ銀行の資産を昔の財政投融資のようなものをつくってうまく活用できないかとの意見もある。
 今はコロナや災害で緊急に必要な資金が多い。池田憲人社長は地域活性化ファンド等に本当に頑張っておられるが、ファンドだけではできることに限界があると思う。
 改正民営化法は審議期間が短く、与党も野党も納得させるために隙間があり、法解釈上、曖昧な記述が多々残されたままだ。今後、少子高齢化が急速に進む中で、郵政事業の在り方を真剣に議論しながら法改正も含めて考えなければ、郵政事業の明日が見えてこないと考える。

 ――4社体制から3社体制にする方が良いのでしょうか。
 柘植議員 三事業一体のためには、日本郵便の傘下に金融2社が位置する形がベスト。増田寬也社長は会社経営の運用の中で、3社体制に近い形にできるよう、日本郵政と日本郵便の一体化を中計の中でも強く打ち出している。しかし、働くリーダーの方々の意識を全て変えるには、それだけでは弱い。
 日本郵便は郵政グループにあっては基軸会社である。その自覚を強く認識し、能力を発揮し、当事者意識と活動を、自信を持って展開してほしいと強く期待する。
 会社法では、ホールディングスは持ち株会社が子会社を把握し、持ち株会社が調整するのが通例だが、難しいのは3社が株式を売却しており、証券取引法により、金融2社に対して持ち株が関与してはいけなくなる。
 このため、増田社長は4社を統合する経営責任者のCEOとして指揮を執っている。そうしたことも、日本郵便の地域性に即した独特なビジネス感覚を生かすのが難しい状況の要因になっている。
 こうした会社体制は現行の法規制の中で、経営権の裁量でどのようにも変えられるものであり、経営陣の強いリーダーシップが期待される。

 ――防災も郵便局長の方々が各地域で頑張ってくださっています。
 柘植議員 防災はこれからの日本で重要だ。災害時に地域の状況を最もよく知っているのは郵便局長で、総務省の地域おこし協力隊も地域に入った時に、誰を頼れば地域が分かるかといえば、地域コミュニティー力を発揮できる郵便局長だ。
 災害時の避難経路等、地域事情に精通し、多くが防災士資格を持つ局長の人的資産を防災に活用すべきで、局舎の防災備蓄管理等も重要となる。
 郵便局に防災器具を配置し、遮断された地域情報を提供できる仕組みづくりを消防庁に提案している。局に地域防災マップの張り出しや、局長による防災避難訓練の実施など、やることはさまざまある。住民に身近なエリマネ局長を巻き込んだ防災の仕組みがつくれるとよい。

 ――郵便局窓口で相続ビジネスなど相談窓口機能を高める必要性は。
 柘植議員 相続や投資信託などの金融商品を取り巻く環境は専門性を有し、時間が多くかかる。複雑化した相続等は局窓口が専門家につなぐビジネスを、民間企業と連携して進めるべきと言ってきた。
 今、かんぽ生命が子会社をつくって進めようと検討されている。過疎地を中心とする2名局、1名局は、郵便・貯金・保険の業務を全部覚えなくてはならないが、その大変さに見合うだけ利用されていない。そうした局は、三事業はユニバーサルサービス商品だけに特化し、相談ビジネスや自治体包括事務受託などに力点を置く方がよいと思う。
 ゆうちょ銀行の直営店の見直しを図り、こうした専門部署として改変すべきと考える。
近年は本社社員の現場への派遣がないため、実態が見えにくいと思うが、行政を補完しながら民間企業として地域利便を高められる郵便局の形を、国民や自治体の声を聞いた上で、しっかりと練り上げていっていただきたい。