日本郵便 千田哲也社長インタビュー(上)

2024.03.24

 時代が音を立てるように変わってきた。自然災害の多発、人口減少や少子高齢化も背景とするデジタル化。日本郵便の千田哲也社長はそうした中で着々と反転に狙いを定める。根底は〝人〟に重点を置いた攻勢だ。お客さまと社員の両者に幸福感が行きわたるよう、手段としてDXにも力を入れる。「一人のお客さまに一つの共通IDを創り、〝一生涯〟に寄り添う」と、人生を丸ごと深く抱えるオールマイティーな郵便局像を描く。地域のために総合的な収支も視野に入れた発想転換にも言及。直近の「令和6年能登半島地震」を受けて、「災害時も『安心・安全の拠点』としての郵便局の仕組みを検討したい」と意欲的だ。

一人の〝一生涯〟に寄り添う郵便局を

 ――「令和6年能登半島地震」の対応が大変でいらっしゃると思います。
 千田社長 私も2月15日に石川県輪島市、穴水町と七尾市、金沢の北陸支社、翌16日に珠洲市と能登町に行き、加納聡支社長と共に「ありがとう、困っていることは何?」と社員の皆さんに状況を教えてもらいながら回った。車中泊や避難所から局に通う社員、家屋の下敷きになって救出された社員も数人いたが、皆元気な笑顔のあいさつを返してくれたことに感謝したい。
 被災地の局駐車場は車があふれて渋滞状態、ATMも金融窓口も途切れなくお客さまがあふれていた。「郵便局を早く再開して」との声も多く、各局が再開する都度喜ばれている。地方に行けば行くほど、郵便局は地域から頼りにされ、特に災害時は極めて〝重要なライフライン〟になっていることを改めて気付かされた。
 2月15日より、全国からのゆうパック引き受けを局留め扱いに限り再開したが、道路は相当傷み、配達には危険も伴う。社員も全員そろっているわけでなく人手不足。
 断水状態などのため、応援社員を出すのも困難で、届け先のお客さまも避難所や2次避難でどこにいらっしゃるか分からず、体育館で名前を呼び上げることも個人情報問題で難しい。避難所から仕事に行かれ、昼は不在の方も多く、配達は難航を極める。
 郵便局に取りに来ていただき、郵便物やゆうパックを窓口でお渡ししてきたが、来局できない方もいらっしゃる。自治体の2次避難所情報を入手してお届けする仕掛けや、差し出された方に戻す形も考えなければならない。
 しかし、いよいよ2月27日からは珠洲市と能登町でご家庭や事業所への戸別配達を再開できた。順次、再開エリアを広げていく。
 一方、局窓口では、これまで年に1度経験するか否かだった相続や死亡請求の相談が急に増え、常時Zoomでヘルプ社員と画面上でつながり、教えてもらいながら懸命に対応してくれている。
さまざまな問い合わせを一括でお受けするコールセンターを設けられれば窓口負担が軽減し、お客さまも喜んでいただけると「課題リスト」に挙げて検討中だ。

災害時も「安心・安全の拠点」に

 ――今後、郵便局をさらに防災拠点として生かすお考えはありますか。
 千田社長 総務省の「郵便局を活用した地方活性化方策」の中にも「局舎を指定緊急避難場所・津波避難ビル等に指定」「備蓄物資の保管及び災害時の避難所等への配送」等々も明記され、取り組んでいきたいが、阪神・淡路大震災、東日本大震災、熊本地震などで痛感したのは、発災時初動の「安否確認」や「ライフライン」の欠乏だった。
 令和6年能登半島地震も約50日が経過した現在(2月21日時点)、復旧できていないのは水道のみとなったが、発災直後は電源がなく、通信がつながらないために安否確認ができなかった。
 日本郵便は社員携帯に「安否情報確認システム」を入れて災害時にやりとりするが、電波が通じないため届かず、携帯に電話してもつながる地域とつながらない地域があった。
 つながっても社員は充電できないため、早く切りたい一心で確認事項を一つ一つ聞ける状況ではなかった。
 東日本大震災時に私はかんぽ生命にいたのだが、やはりすぐに現地とつながらず、翌朝ようやく仙台サービスセンターの電源が入ったことで、テレビ会議システムから状況を把握でき、そこで初めて何を支援すべきかを判断することができた。その体験からも、発災初動で最重要なのは電源だと思っている。
 全てを機能させられなくても、通信だけでも維持できる電源を郵便局が確保し、地域の方々に利用いただける〝バッテリー〟が備えられるとよい。
 今の時代はスマホや携帯が命だが、通信会社でもすぐ復旧できるとは限らない。そうした中で郵便局がイリジウム衛星携帯を持つだけでも違う。備蓄も重要だが、ある程度は市町村や自衛隊にも配っていただける。
 それ以上に、現地で何が起き、「命は大丈夫か?」「家族はどこにいるのか?」など情報が錯綜する中、郵便局が一時的に通信できる拠点になれば、初動の対応が大きく変わる。
 電力源にもなるEV車両も災害時に住民の方々が使えるようにできれば理想的。「あそこの郵便局は衛星通信などがあるから通信も大丈夫」と日頃からアナウンスし、災害時も「安全・安心の拠点」としての郵便局の仕組みを検討したい。

 ――今後の郵便局の公的サービスに、どのようなイメージをお持ちですか。
 千田社長 自治体との包括連携協定は2023(令和5)年12月時点で45都道府県1459市区町村と締結してきた。住民票等写しやマイナンバーカード関連事務、プレミアム商品券などもどんどん進める。
 コンビニもなく、農協や小学校もなく、派出所すら撤退し、郵便局しかない地域も地方では増えている。災害時を含めて自治体からの行政サービスを受託することも大切な役割だが、それだけにとどまらず、地域の方々に〝寄り添える〟仕組みを創りたい。
 その発想から生まれた「みまもりサービス」も高齢者みまもりのほか、空き家みまもりも展開し、「終活」も全国に広げる。しかし、これまでのみまもりサービスは採算性で行き詰まっている。
 終活も郵便局が相談を受けたお客さまを専門の方につなぐだけでは結局、高い料金を専門家にお支払いするままで収支が合わない悪循環に陥る。
 ただ、私は発想を転換したい。地域のために存在する郵便局であるのなら、地域の方々に一定程度の投資を行いつつ、社内の横展開の中で採算性を考えるべきではないだろうか。
 みまもりサービスがお客さまに受け入れられることで、郵便局の本来ビジネスである物販分野で介護用品やお弁当の販売に直結させることが必要であり、ゆうちょやかんぽも将来、介護保険を検討するかもしれない。
 もちろん赤字を垂れ流す慈善事業はできないが、どんなサービスでも初期投資が必要。一つのビジネスだけで完全にペイできなくても、全体でペイできる形に転換していきたい。
 郵便だけ、ゆうちょだけ、かんぽだけ、自治体サービス受託だけ、みまもりサービスだけでビジネスモデルを成り立たせるのではなく、一人のお客さまの〝一生涯〟に寄り添い、総合的に郵便局がサービスを提供し、郵便局を使っていただき、愛していただく。
 全般でアプローチして喜ばれることにより社員も幸せになれるのなら、少々個々のビジネスは持ち出しがあってもよい発想への転換だ。

 ――一人の人生に寄り添うということですね。
 千田社長 それを「共通ID」という仕掛けで動かしていきたい。郵便ID、ゆうちょID、みまもりID等々と業務別に分断するのでなく、一人のお客さまに一つの共通IDを創り、〝一生涯〟に寄り添う。場合によっては「世帯」、一緒には住まわれないご家族ともつながり、寄り添う形ができれば、郵便局はもっと地域の方々のお役に立てる。