ザ・不撓不屈(下) いんどう周作
――内閣官房時代にオープンデータ(国や自治体が公開している誰もが利用可能なデータ)の活用に取り組まれたそうですね。
いんどう相談役 既にオープンデータは全国ほとんどの自治体で行われているが、公開するデータの内容等には自治体ごとにまだ差があるようだ。
内閣官房IT室時代、同室が各省庁の司令塔的な役割を担っていたことから、各省庁や自治体のデータを公開する仕組みや、公開データを分野横断的に活用できるための仕組みづくりに携わった。
デジタル時代は〝地域の時代〟だ
データを誰もがネットで共有できる時代だからこそ、地域の暮らしを良くできるのであれば、行政のみならず、企業が保有するデータも相互に共用していくことが大事だ。そのための議員立法「官民データ活用推進基本法」の策定もお手伝いをさせていただいた。
現在、政府は防災庁の設置を準備しているが、防災は地図と関連データを連携させることで、さまざまな取り組みが期待できる。例えば、ボーリングデータは地層や地盤の強弱、大洪水発生時の危険性等を分析できるため、防災・減災、被災時の避難などに役立つ。
被災後も、避難所に救援物資を手配する時、求められる物資がどこにどの程度存在し、被災地にどう運ぶのか、日頃から物流等の事業者とお互いのデータを共有しておけば、いざという時に円滑な救援活動を展開できる。
また、マイナンバーカード等との連携で、避難所に高齢者や要介護者、乳幼児などが何人避難しているか等もリアルタイムで把握し、適切な支援体制を構築できる。広域災害になればなるほど、このような取り組みは効果が大きくなると考える。
――オープンデータは郵便局と親和性がありそうですね。
いんどう相談役 防災分野をとってみても、郵便局は全国津々浦々にあり、郵便局長の大半が防災士の資格を持っていることから、デジタルを活用した防災・減災・避難支援を行う拠点としての役割が求められてくる。
防災は平時における備えが大事であり、郵便局が自治体と連携し、地域の高齢者の方々がどの地区にどの程度住んでいるのか等をデータとして活用することで、郵便局を拠点に自治体や地域の方々がきめ細かな災害対策を協働できる形をつくっておくことも可能になる。
先進国の中でも特に高齢化のスピードが早いわが国には喫緊の課題であり、年代別の高齢者数といったデータであれば個人情報にならないはずだ。
また、このような取り組みを行うに当たっては通信体制の整備も不可欠であり、被災時に通信ができない状況は避けなければならない。衛星等も活用し、どのような状況でもネットが利用できるようにしておくことが必要だ。
――日本郵政グループもオープンデータを意識されていると思うのですが、郵便局はデータ活用の拠点にすべきでしょうか。
いんどう相談役 データ活用の拠点とは異なる。災害時にも地図に即した分布データは極めて貴重な判断材料になるが、データ活用は地域の方々が分野を超えて連携して活動するための手段に過ぎない。その活動拠点としての郵便局ということを意味する。
データは集めておくだけではなく、データを共有し、地域の皆で分析することが重要で、特に、地域の課題に「気づく力」、そしてその解決策を見いだす「発想力」が大切。でなければ、データは宝の持ち腐れになる。
日本郵政グループもデジタル化に取り組まれているが、「気づく力」「発想力」は、現場で地域の方々と普段のお付き合いや信頼関係があってこそ機能するものだ。郵便局長をはじめ、社員の皆さんが地域の課題やニーズを把握する活動や、そういう課題やニーズに自治体や地域の方々と連携して対応するためのサービスや商品開発にしっかりと投資していただければと思う。
郵便・貯金・保険のような全国一律のユニバーサルサービスとは異なり、地域課題は地域ごとに異なる。簡易局も含め、約2万4000局の郵便局ネットワークだからこそ、地域ニーズに合ったサービスを提供できる。現場重視の体制をつくっていかなければ、これから各地域の人々が安心して暮らせる状況は守れない。
――デジタルといえば、オンライン診療で厚生労働省が日本郵便と連携し、各地域のニーズを調査しているようですが。
いんどう相談役 オンライン診療は既に一部の郵便局で実証も行われているが、医師がいない地域を中心に郵便局をその拠点として活用していく必要がある。
ただ、重要なことはオンライン診療のみではなく、例えば、診察後の処方箋データを共有し、高齢者のご自宅に郵便で薬を配達するサービスや、オンライン診療で健康指導を受けた方や要介護の方などに適した食事をデリバリーするサービスなど、分野を超えて関連サービスを拡大していく発想を柔軟に持つことである。
他にも、要介護の診断を受けた方への介護施設の紹介サービスなども考えられるように、さまざまなデータを共有し、郵便局を地域の人々が安心して暮らすための存在にしていく必要がある。
これからの社会のデジタル化を推進していくには、従来の知識偏重型から〝気づく力〟〝発想力〟を高める「人づくり」も重視すべきだろう。政治を通して柔軟で細やかな感性を育む教育ができる社会づくりにも貢献したい。デジタル時代こそ「地域の時代」だ。