戦時期のパンフレット 一橋大学 米山高生名誉教授 ⑨
2025.05.23
日本が戦時経済に突入すると国営の簡保・郵貯は、国策に従った募集をすることになった。今回は二つの画像を掲載したが、最初のもの(写真上)は、爆撃機がデザインされ戦争を思わせるが、「国策に沿って、老後に添う年金」とある。国のためになりながら、自分の老後の備えとなるという文言だ。
「備えよ常に、祖国のために」
これに対し、次のパンフレット(写真上)は、「備えよ常に、祖国のために」とあり、簡易保険や郵便年金で「備える」ことが、もっぱら「祖国のため」であることが強調されている。図柄も富士山を背景に、2台の戦闘機が悠々と飛んでいるもので、当時の戦況の現実から目を背けて「勝利への確信」を示す図柄である。
戦時経済統制下にあっては、簡保・年金ばかりではなく、民間生保も国策に大いに協力した。その意味では、簡保・郵貯だけが突出して戦時協力を行ったというわけではない。
しかし、庶民の貯蓄促進に尽力したことが、結果的に、敗戦後のインフレーションの中で庶民の財産を毀損することに至ったことは残念だった。庶民が簡保・郵貯に託した「虎の子」は、戦後のインフレーションによって、取るに足りない価値となってしまった。
このことは、他の民間金融機関も同様であり、簡保・郵貯だけの問題ではないが、この時に庶民の失望から、再び簡保・郵貯が信頼を得るためには、現場の人々の大きな尽力が必要であったのである。