インタビュー 鈴木茂樹元総務事務次官 ㈱横須賀テレコムリサーチパーク社長
日本郵政グループ株式上場時の1年前から総務省郵政行政部長を務め、さまざま水面下の交渉にも尽力した鈴木茂樹元総務事務次官(㈱横須賀テレコムリサーチパーク社長)は今も第三者的な立場から郵政事業を温かく見守っている。鈴木氏は「社会や経済が急速に変わる中で、サービスが適宜、迅速に提供され、各地域で国民に選ばれ、利用される郵便局になってほしい」と話す。
選ばれ、利用される郵便局に
――郵政民営化丸15年の姿をどうご覧になられていますか。
鈴木氏 私の叔父が郵便局員で保険の外務員だった。生まれてすぐに両親が郵便貯金口座を作り、後に学資保険にも入ってくれて、大学進学時に「大学のお金に使いなさい」と学資保険金を渡されて進学し、卒業後に郵政省に入る時にゆうちょ銀の通帳を渡されて「これからは自分で管理しなさい」と言われた。
武蔵野局で5週間の実習を受けて郵便の内務・外務・貯金・保険を一通り経験した。地図を持って一区画全て配達をさせていただいたことも懐かしい思い出だ。
北海道余市の局長に就任し、初めて郵便営業を経験。親の影響もあって手紙を書くのは当たり前、レターセットを持ち歩き、何かあったときは一言、御礼はがきを書いてきた。局長時代には700枚超の年賀状も書いた。郵政事業は常に私の身近にあった。
国営事業が民営化された事例は他にも電電公社、国鉄、たばこ、塩など多くあるが、日本たばこ産業㈱は外国たばこ企業を買収し、海外の統括会社をスイスに置き、大成功している。
JRは過去の債務を清算事業団に移し不採算路線を廃止し、今は駅ナカビジネスで売り上げを増やし、JR九州は新しい列車で顧客を開拓して成功している。NTTはドコモを大きく成長させ、民営化時に5兆円だったビジネスが11兆円を超えている。
日本郵政グループは積極的に不動産開発等を進めているが、成長分野についてあれができない、これができないと臆しているように見える。もっと新しいサービスに挑戦してよい。どうしたらお客さまに選ばれ、ユニバーサルサービスを継続できるのかを考えなければならない。
郵便局も昔を維持しているだけでは駄目。ゆうちょ銀行とかんぽ生命含めて、社会や経済が急速に変わる中で各地域の国民に選ばれ、利用される郵政事業になっていただきたい。
――どのような部分を変えた方がよいとお考えですか。
鈴木氏 岡山県新見市菅生で民営化前に起伏の激しい山道を走る社員が、〒マーク入りのハンカチが軒先にぶら下げられた高齢者宅に立ち寄って声を掛けていた「赤いハンカチ」の話を聞いたことがあるが、地域住民と郵便局員とを紡ぐサービスだったという。
民営化・分社化以降はこうしたサービスはなくなったが、「郵便局のみまもりサービス」等でその精神はビジネス化され、デジタル時代の今はスマートスピーカーを活用する形も出てきたようだ。
集落等の平均年齢は上がっている。ご高齢で足腰の弱い方々が、特に山間部で局窓口まで行かなければならなかったり、何かで遠方の単マネ局まで行かなければならなかったりする場合があるようでは、ぬくもりある優しいサービスとはいえない。
一番近いエリマネ局や簡易局で事が済めば楽だし、山間地等の2名局では局長や社員が高齢者宅を回ればよい。
民営化前にできていた、郵便配達時に「おばあちゃん、何か用ある?」と、ゆうちょ口座の資金の出し入れ、かんぽ保険金のお届けなどを社員ができる「総合担務」のような仕組みを取り戻すのはいかがだろうか。出張サービスをできるようにしなければ、超高齢社会で郵便局の役割を生かし切れない。
――郵政事業を振り返られて印象に残ったことなどは。
鈴木氏 三つある。一つ目は「郵便番号自動読み取り区分機の導入」で、テクノロジーはすごいと感動した。二つ目はJRストをきっかけに、輸送をJRから自動車および航空便に切り替えた「59・2輸送改革」。ヤマトに対抗して営業を始めて、「国営(当時)なのに営業やっている」と驚いた。だから郵政事業は生き残っているのだ、とその当時は思った。
三つ目は、2018(平成30)年12月、ゆうちょの貯金の限度額が通常貯金と定期性貯金を別枠にしてそれぞれ限度額を1300万円とし、総計2600万円までの引き上げを決定したこと。
通常貯金に限度額があること自体おかしい。退職金を仮に2000万円もらったとしても通常に預けておけず、いったん預け入れても限度額オーバーとして利子は付かず振替口座に移される。
「限度額を超えています、他に移してください」はおかしな話で、地元の郵便局を利用される中小企業の方も資金を預けておけない。別枠にできたのは良かった。
顧客利便を考えたら金融サービスもワンストップであるべきだ。日本郵政グループとしてあらゆる商品を品ぞろえし、郵便局窓口でも全部ワンストップでできるようにするのが将来的には理想だと思う。