インタビュー 全国郵便局長会 勝又一明会長

2025.07.10

 5月の全国郵便局長会札幌総会で会長に就任した勝又一明会長は6月に郵政専門紙誌の共同インタビューに応じ、「意識する言葉は『変化を恐れず、挑戦を楽しむ』。『できるか、できないか』ではなく『やるか、やらないか』に尽きる」と強調。「局長はもっと地域の人の輪に入って存在感を高めるべきだ『地域から頼られる郵便局長を目指す』を合言葉にしていきたい」などと語った。

地域から頼られる郵便局長に

 勝又会長は「『課題を解決する組織』を第一の目標に掲げ、取り組みたい。後輩局長たちには『井の中の蛙になるな』と言ってきた。組織の〝自立〟を促していきたい。『全特は何をしてくれるのですか』ではなく、自分たちが何をすべきかを起点に〝自ら考える〟意の自立だ」と話す。
 その上で「守るべきものは『地域にお住まいの皆さま』と『地域密着性』、先達が創り上げた『郵便局、郵便局ネットワーク』だ。郵便局ネットワークは一度壊してしまえば、コストをかけても同じものは二度とつくれない」とも指摘する。

〝課題解決〟が第一の目標

 ――新会長ご就任おめでとうございます。ご抱負やキャッチフレーズ、座右の銘等をお教えください。郵便局長それぞれが地域実情を把握するために心掛けるべきことは何でしょうか。
 勝又会長 34歳の時、転職をして郵便局長になって30年。今、全特会長として非常に緊張感を持っているが、郵政事業を愛する気持ちは誰にも負けない思いだ。尊い事業を次世代につなげるために何をすべきかを考えて取り組んでいきたい。
 郵政事業、郵便局を守るために場合によっては何かを変える決断が必要な時もあるだろう。その際には勇気を持って明るい未来を目指していきたい。
 明るい未来を描くのに最も大切なことは「地域から頼られる郵便局長」の基本に立ち返ることだと思う。地域に入り、地域にお住まいの方とさまざまな機会に直接会ってコミュニケーションを図り、信頼をいただく。
 コロナ禍以降、コミュニケーションが不足しがちで、局長が地域の人の輪に入っていくことが少なくなったことが心配だ。もっと地域に入り込み、存在感を高めるべきだ。「地域から頼られる郵便局長を目指す」を合言葉にしていきたい。
 座右の銘とまでは言えないが、意識する言葉は「変化を恐れず、挑戦を楽しむ」。「できるか、できないか」ではなく「やるか、やらないか」に尽きる。

挑戦を楽しむ自立型の組織を

 ――どのように組織強化を図られますか。
 勝又会長 前末武晃会長が懸命に取り組まれた「風通しの良い組織づくり」ももちろん私のやるべき仕事として引き継がせていただくが、全特として「課題を解決する組織」を第一の目標に掲げ、取り組みたい。後輩局長たちに「井の中の蛙になるな」とよく言ってきた。
 民営・分社化されて18年が経過し、当時と社会環境が大きく変わる中で、会社の仕組み等が現状に即していないと思えるものがあれば、全特としても変えるべき部分として見極めていきたい。
 また、組織の〝自立〟を促したい。組織から逸脱や反旗を翻す意ではない。「全特は何をしてくれるのですか」ではなく、自分たちが何をすべきかを起点に自ら考える意の自立。地区会長が責任を持って組織の運営を考え、地方会が指導する形を目指したい。
 言われたことを単に実行するより、その方が楽しいはずだ。全特もきめ細かく各地のさまざまなことを決めていけるわけではない。方針は示すが、実行部隊は地方会であり、地区会。大筋が間違っていなければ、地域性に即してやり方を変えていただくことは問題ないと思っている。
 風通しの良い組織に向けた5年計画で実施している全特役員と地区会との意見交換は、今年を含めてあと2年。会長の私が一会員に直接会ってもなかなか本音まで言ってもらえないのが現実だが、さまざま工夫を凝らし、一会員の目線に合わせられる「寄り添う組織」を目指したい。
 ただし、寄り添うことは非常に重要だが、決定は責任ある立場の者がすべき。そうした時に約1万9000人全員がイエスの回答は出せない。不平不満は必ず出てくる。
 例えば、役員会で議論したことを12地方会長がそれぞれ持ち帰り、各地方で地区会長に伝達し、地区会長は部会長に伝える中で全特の意思が少しずつ変わって伝えられ、会員一人一人まで正確に届いていないことは大いにあり得る。ベストな伝達方法も探っていきたい。

守るべきは「地域と郵便局ネットワーク」

 ――全特教本「礎」には「不易流行」として組織の在り方が示唆されているようですが、守るべきもの、柔軟に改変すべきものとは。
 勝又会長 郵便局、郵便局ネットワークは国民生活に密着した局長一人一人の地道な活動により、創業以来、地域に密着し、信用と信頼を得て有効に機能してきた。
 この信用・信頼を高めるために会員一人一人に寄り添い、会員同士のコミュニケーションの深化を図って、さらなる組織強化に取り組む。特に山積する課題の早期解決を図っていきたい。
 会則第3条には「会員の団結により、郵政事業及び地域社会の発展に寄与するとともに、会員の勤務条件の向上を図る」と明記されている。会員が活動しやすいように、明るい未来が見えるように導くのが役目。
 全特は事業展開も取り組むが、軸足は課題解決のための組織だと思う。郵政事業の課題を認識し、何を優先的に会社と折衝して解決できるかを協議したい。
 「不易流行」の精神で守るべきものは「地域にお住まいの皆さま」と「地域密着性」、先達が創り上げた「郵便局、郵便局ネットワーク」だ。郵便局ネットワークは一度壊してしまえば、コストをかけても同じものは二度とつくれない。このことは特に慎重に考える必要がある。
 一方で「柔軟に変えていくべきもの」は環境の変化や地域に住まわれる方々のニーズに合わせたサービス提供の方法や内容だ。

 ――地方創生の取り組みや自治体の包括事務受託等拡大に向けた課題とは。局長の方々が特に力を入れるべき部分とは何ですか。
 勝又会長 6月13日に閣議決定された「地方創生2.0基本構想」に「郵便局の利活用」を盛り込んでいただいた。
 窓口でなければできなかったサービスがスマホ1台でも完結できる時代に入り、全国どこの郵便局もお客さまが減っていることも課題の一つだが、一方で郵便局以外の金融機関が撤退し、郵便局だけが残る地域も徐々に増えている。
 先般、国会に提出された郵政民営化法等の一部を改正する法律案にも記載された「郵便局ネットワークの活用による地域住民の生活の支援」の内容は非常に大切な部分だと思う。郵便局が三事業以外にも行政サービスや買い物支援、オンライン診療のための拠点としての役割も公共性を生かし、しっかり取り組みたい。
 オンライン診療は日本医師会等の医療関係団体と総務省、厚労省、日本郵政、日本郵便、全特が参加する「公益的なオンライン診療を推進する協議会」が立ち上げられた。現時点では過疎地が中心だが、我々も〝使命はここにある〟と強く感じている。
 包括事務受託は自治体が郵便局へ委託する際の手数料等の問題で断念されるケースが多かった。しかし、法案に盛り込まれた「地域貢献基金」等で今後、課題解決が図られていくと思う。

 ――地方創生発表大会等を復活されるお考えはありますか。
 勝又会長 私としては、地方創生も大事であるが、地域との結び付きをより強くする地域貢献に注力することを進めたい。
 しかし、地域活動をしなさいと若い会員に言っても、何をしてよいかが分からない。参考にできそうな地域貢献の事例集作りやオンラインも使って発表会もやるべきではないかと思っており、取り組むこととしている。
 会社は展開した事業を踏襲しがちだが、全特も現場目線で、今必要なものか、ブラッシュアップすべき部分は勇気を持って変えるべきと話させていただきたい。時代は刻一刻と変わっている。

 ――郵便局ネットワークについて、都市部は集約すべきですか。半日営業はネットワークを崩す可能性があるのでしょうか。リアルとデジタルの融合、コミュニティ・ハブ等々、企業や団体との共創拠点としての役割とは。
 勝又会長 少子高齢化、過疎化が進展する中で郵便局ネットワークを守るために重要なことは採算性を維持しつつ、公益性を確保すること。
 来局者の方々が減少し、収益が減少する中、ネットワークを生かし、維持するために、地方であれば自治体事務受託等で収益性を高められる。
 しかし、私は都市部のネットワークも維持すべきだと考えている。大都市は郵便物やゆうパックの数が地方と比べ物にならないほど多い。エリマネ局を含めて局数を減らすと、現状では対応できなくなる。
 「半日営業」については、郵便局を休止する時間帯に新たな事業を行って、収益を上げることができれば有益だ。「崩す可能性」があるものとは思っていない。全国各地の郵便局で農業や地元の産業との連携も始まっている。
 静岡県や山形県では農産物の取り集め、栃木県でのいちご栽培、高知県での水産加工業との連携等々だ。窓口を半日休止にすることで確保できる労働力を活用した共創の取り組みが進んでいくことになるだろう。
 郵便局スペースを活用したスマホ教室も、スマホショップのない地域にすみ分けられていたと思うが、高齢者の方々のサポートは大きな役割の一つだ。
 郵便局は地域に残る〝最後の対面拠点〟。最大限活用すべきで、地域住民の方々がデジタル社会で取り残されないためのお手伝いをすることは、郵便局の使命の一つだと思っている。

 ――防災における全特の果たすべき役割とは。ニューレジリエンスフォーラムの発起人の一員を前末武会長から引き継がれましたね。
 勝又会長 先般行われた日本防災士機構の2025(令和7)年防災士功労表彰で団体として宮城県北部地区郵便局長会が、個人としては千葉県・木更津桜井郵便局長が日頃の地域防災活動が評価された。約1万3000名の防災士を擁する全特として〝地域防災〟に積極的に関わっていく方針だ。
 6月下旬に奥能登に行ってきたが、現場を見て復興はまだまだ時間がかかると感じた。
 移動型郵便局でお客さまにサービス提供している地域もあるが、町のグランドデザインができない中でも「郵便局、早く再開して。隔日でも週に2日、1日でも開けて」とのお客さまの声が現地の局長に入っている。地域が期待する郵便局の姿があると、ひしひしと感じた。
 気候変動の影響もあり、近年、巨大台風や線状降水帯、豪雪等の異常気象による災害が多発している。また昨年1月に発生した能登半島地震等の地震災害、火山活動の活発化等もあり、東南海地震や南海トラフ地震、富士山噴火等により甚大な被害が想定されている静岡県に住む私も他人事ではないと危機感を感じている。
 防災士資格を持つ会員はもちろん、それ以外の会員を含め、地域防災にしっかりと関わることが重要だ。会社施策として、防災物品の保管場所として郵便局の空きスペース活用が始まり、地域防災拠点化もできると思っている。
 防災士資格を有する会員も毎年何千人が退職を迎え、新人局長を迎える中で新たに防災士の資格者を増やさなければいけないが、資格取得後にできることを全特役員間で協議をしていきたい。
 例えば北海道と沖縄では抱えている課題、取り組むべき内容は異なる。12地方会がその地方に求められている防災施策を把握し、取り組むことが大切になる。自立性を重んじたい。

 ――民営・分社化から18年。グループ一体の低下等の変化をどう認識されますか。
 勝又会長 2007(平成19)年10月の民営・分社化以降、本来は一体的であるべき郵便、貯金、保険の三事業が、時がたつにつれて遠心力が強まり、各事業間の距離が遠のいてきた。
 当初は世界情勢も郵政民営化がトレンドだったが、時代が変わった。日本は先進国の中でも先行して、人口減少、少子高齢化が進んでいる。
 社会環境が一変した中で全国に張り巡らされる郵便局ネットワークは社会生活の基盤となる重要なインフラの一つ。特に情報弱者となりやすい高齢者の方も安心して対面利用いただける〝最後の砦〟といっても過言ではない。
 今後、提供する商品内容は変化するかもしれないが、三事業を一体的に窓口で提供できる郵便局の仕組みは絶対的に残す必要があると思う。
 かんぽ生命は数年前に渉外社員が日本郵便からかんぽ生命に出向したが、まだまだ郵便局で申し込まれる保険契約は多い。一方、ゆうちょ銀行と郵便局窓口がもっと一緒に仕事をするスタイルが構築できると良いと思う。
 都市部では郵便局以外の金融機関も多いが、過疎地に行くと金融機関が郵便局しかない地域も多い。単純な議論では難しいが、各地方会でも考えていかなければいけない問題と認識している。

 ――集配統合局のエリマネ局は負担が大き過ぎるように思えます。会社の次期中期経営計画にどのような視点を盛り込んでほしいですか。期待する経営改革とは。
 勝又会長 これまでも三事業それぞれでエリマネ局と単マネ局の連携が図られてきたが、必ずしも十分とは言えない状況があった。改善の余地があると思う。
 集配センターマネジメント統合は、さまざまな課題を整理できないままに進められてきた。一度立ち止まって集配センター統合の在り方を考えなければいけないタイミングだと思う。
 統合局と受け持ち局である単マネ局との関係も点呼を含め、統合局長の負担が大き過ぎる。会社に指導要員の確保、事務処理の簡素化、統合局長の負担に見合った処遇改善等を求めていきたい。
 次期中計がどのような方向性でまとめられていくのか分からないが、前島密翁の「縁の下の力持ちになることを厭うな。人のために良かれと願う心を常に持てよ」が実践できる内容を期待申し上げたい。
 郵便局ネットワークを企業原理、経済合理性のみで語るのではなく、公益性と公共性を意識していただくことが、郵便局で働く社員のモチベーション向上に大きく左右する。

 ――日本郵政の根岸新社長は初の部内出身社長。局長会としてコミュニケーションが取りやすくなるとお考えですか。
 勝又会長 日本郵政の社長に、日本郵便の東海支社長も経験された方が就任されることにお祝い申し上げたい。現場の実態を知る根岸新社長に対する我々の期待は大きい。
 日本郵政グループは全国に約2万4000カ所以上の拠点を持つ日本でも有数の巨大企業グループだが、誤解を恐れずに申し上げれば、民営・分社化以降、グループトップである日本郵政の幹部と地域のお客さまとの接点である郵便局長との距離感は広がるばかりと感じてきた。
 ゆうちょ銀行、かんぽ生命にも言えることだが、一番重要であるはずの現場の実態が十分に理解されずに、トップダウンで物事が進められたことによる弊害だと思う。
 その意味で、現場の実態をよく知る根岸社長に現場との距離感を縮めていただけることを期待している。

 ――郵政関連法見直し法案に対する見解を。
 勝又会長 6月17日に「郵政民営化法等の一部を改正する法律案」が国会に提出された。
 内容は「郵政三事業のユニバーサルサービスの確保」と「郵便局ネットワークの活用による地域住民の生活支援」だが、まずは提出に至るまでご尽力いただいた自民党幹事長で郵政事業に関する特命委員長の森山先生や郵活連会長の山口俊一先生をはじめ、自民党、公明党、国民民主党などの趣旨に賛同いただいた先生方に御礼申し上げたい。
 しかし、法案内容は全特が熱望する「日本郵政と日本郵便の合併」や「ゆうちょ、かんぽの上乗せ規制の撤廃」がいずれも期限付きで「検討する」とされている点は大変残念だ。通常国会会期中に成立できず、継続審議となったため、引き続き成立に向けて先生方に強力な支援をお願いしていく。

 ――いんどう相談役には何を期待されますか。
 勝又会長 いんどう相談役は旧郵政省、総務省において郵政行政、情報通信行政等に携わり、郵政事業に造詣が深く、強い想いを持っていらっしゃる。
 また、2009(平成21)年には総務大臣秘書官を務め、さらに国土交通省、内閣官房IT戦略室、デジタル庁での勤務経験を有するなど情報通信、デジタル社会の知識と経験も併せ持つ。
 在フランス日本大使館一等書記官の勤務経験も持たれ、郵政事業と地域社会の明るい未来に向かって共に歩んでいただける方だと確信している。