ドローンで「コミュニティー配送」モデルを 日本郵便×ACSL×兵庫県×豊岡市

2024.05.01

 赤いポストをほうふつさせる愛らしいドローン(㈱ACSL製のJP2)が兵庫県豊岡市の出石局(榎本正義局長)から飛び立ち、山間をすり抜け、公民館や高齢者生活支援センターまでゆうパックを届けた。日本郵便・ACSL・兵庫県・豊岡市が3月21日に報道陣に公開した新機体による「レベル3.5」の実証飛行は平時と災害時の両側面から「コミュニティー配送」のモデルづくりへの第一歩。ドローンが生活に溶け込む近未来が近づいてきた。

災害時の医薬品配送も視野に
配送新時代、空飛ぶ〝赤いポスト〟

 「令和6年能登半島地震」では地上の交通が寸断される中、人が点在する集落への支援物資の配送が大きな課題として浮上し、医薬品配送などにドローンも活用された。一方、平時は「2024年問題」を受け、山間地や離島へのドローン配送実現はニーズがますます高まっている。今回、3月4日~22日までの実証飛行では、ドローンが拠点に到着した後、各家庭への配送方策も模索。実用化に向けた課題を抽出した。
 実証では、ACSL社製の新機体(JP2〈積載量1.7㌔㌘→4.5㌔㌘・飛行距離約10㌔㍍→35㌔㍍〉)を使い、兵庫県と豊岡市の協力のもと、①出石局から片道11㌔㍍の唐川公民館(約19分)②出石局から片道8㌔㍍の高齢者生活支援センターきずな(約11分)――の2ルートを飛行し、ゆうパックを置き配する「レベル3.5」(レベル3での「道路横断時に補助者・看板等の配置」を不要とする無人地帯の目視外飛行)配送を実施。ドローンを局敷地内や操作拠点から遠隔操作し、離陸や着陸を指示した。

ドローンのシステムを遠隔操作する社員の皆さま

 2016(平成28)年度以来、ドローンの実証実験を重ねる日本郵便は、技術・運用・環境面での検証を継続。ACSL社製「PF1」で18年に日本初の「レベル3」(無人地帯の目視外飛行)配送を実施し、19年には同社と業務提携を結び、日本初の「レベル3ラストワンマイル」配送も実現した。
 23年3月に東京都奥多摩町と三重県熊野市で日本初の「レベル4」(有人地帯の目視外飛行)配送も実現した。
 23年12月に国土交通省がドローン事業化促進のために、「レベル3.5」を新設。同年12月には㈱NEXT DELIVERYが北海道内で食品や新聞の「レベル3.5」配送サービスを事業化している。
 3月21日に現地で行われた立ち会い会見で、日本郵便の五味儀裕執行役員は「集落維持や地域コミュニティーの下支えは日本郵便の使命。機体や技術、制度含めて実装への手応えを感じている。平時も災害時も想定して具体化したい」と強調。
高齢者生活支援センターで市民の声を聞く斎藤知事と関市長

 兵庫県の斎藤元彦知事は「防水や通信機能も一歩一歩改善。災害時の医薬品等配送のために各集落とのドローンを使った物流の流れをつくりたい。日本郵便や市と連携し、兵庫豊岡モデルを全国に広げたい」と意欲を示した。
 豊岡市の関貫久仁郎市長は「実用化は各地域の受け取り体制も重要。地域の皆さんと協力し、支援しながらスムーズな体制を整えたい」と述べた。ACSLの鷲谷聡之社長は「過去の機体に比べ、2倍以上の重さが運べ、飛行距離も3倍以上に性能を向上。天候や通信インフラの課題も見えてきた」と語った。

能登被災地に医薬品を
鷲谷聡之ACSL社長

 日本郵便と資本・業務提携を締結し、UPU(万国郵便連合)諮問委員会(指定された郵便事業者ではない関係企業等で構成される組織)のメンバーでもあるACSLの鷲谷聡之社長が3月21日に兵庫県豊岡市内で報道陣に公開されたドローン新機体JP2による「レベル3.5」の実証飛行に立ち会い、見守っていた。

 ――実証飛行のご感想を。
 鷲谷社長 航空法が緩和されたレベル3.5の枠組みを、需要がある地域で検証できた意義は大きい。4.5㌔㌘まで運べ、業務に耐えうる機体ができたことも大きな成果だ。

 ――UPUの中では日本郵便とACSLの連携をどう評価されているのでしょうか。
 鷲谷社長 UPUのさまざまなカンファレンスでも、日本郵便と我々の取り組みは何度も報告し、発信させていただいている。郵便等のドローン活用は日本郵便が世界的にリードしているため、各国から使いたいとのご要望を多々いただいている。将来的にはドローンのソフトウエアを含め、全てのシステムを海外にも輸出していきたい。

 ――能登半島地震での活用はありましたか。
 鷲谷社長 孤立集落に一部医薬品を運ばせていただいた。航空法上の災害特例の枠組みを活用して、災害支援の物流もさせていただいている。

 ――目指す着地点は。
 鷲谷社長 過疎地等であればレベル3.5で十分実用化が可能だと思うが、都市部含めてとなると、レベル4認証が実用化の水準になってくる。機体性能をそこまで仕上げていくことと、同時に全国津々浦々でドローン飛行に対する理解を広げる活動もやらなければいけないと思っている。