インタビュー いんどう周作全国郵便局長会相談役
来夏の第27回参議院議員通常選挙に向けた全国郵便局長会(末武晃会長)の組織内候補予定者のいんどう周作相談役の眼の先にあるのは〝人〟であり、〝地域〟だ。「デジタル時代は〝個々のお客さま〟という需要側に寄り添うビジネスモデルに転換しなければ購買に結び付かない。住民の方々の声を聞き、状況をきめ細かく把握できる郵便局の窓口事業を中心に据えるべき」と強調。また、「『地域のデジタル拠点』に『人がいる郵便局』の活用が大事」と郵便局の拠点価値の幅を広げ、高めることで国として次世代を準備する重要性を指摘した。
どこまでも〝人〟に寄り添う郵便局を
あらゆる「拠点」として価値を創造
――今後、郵政事業はどのように変革すべきと思われますか。
いんどう相談役 2007(平成19)年10月の民営化前後に総務省で郵政行政に携わっていた。あれから丸17年。今、改めて感じるのは当時とは全く異なる社会環境の変化だ。
デジタル化の進展に伴い、郵便物数は大きく減少した。10月から郵便料金が値上げされたが、すぐに赤字に陥ることが予測されている状況。三事業を取り巻く環境が大きく変化したことを前提に、これからの郵便局を考えていかなければならない。
昔はテレビやラジオでの情報発信が最も国民に訴える手段だったが、今は個人がSNS等で「こういうものが欲しい」「ああいうサービスは改善した方がいい」等々、さまざまな情報を発信できる。
これからわが国が、生産年齢人口が減少する超少子高齢社会に突入する中、日本郵政グループだけでなく、あらゆる企業がビジネスモデルを根底から変えなければ取り残される時代になった。
会社の供給側に立ったビジネスモデルから、個々の〝お客さま〟という需要側に寄り添うビジネスモデルに転換しなければ、購買に結び付かない。アンケートやモニタリング調査で顧客の求める平均的な商品を作って売れ筋を狙うやり方では難しい。
そうした時代にあって日本郵政グループとして、どの会社、どの事業を中心に据えるべきかといえば、郵便局の窓口事業だ。窓口は地域住民の方々が今、何を欲しているのか肌で分かる。
局長の皆さんは窓口でお客さまを待つだけでなく、地域に溶け込み、住民の方々の声を聞き、状況をきめ細かく把握している。そうして手に入れた生の最新情報をもとに、商品・サービスの開発や改善を行うビジネスモデルに変革しなければ、デジタル時代に選ばれる企業には到底なれない。
――郵便局ネットワークの将来をどう描かれていますか。
いんどう相談役 年賀はがきの発行枚数は2003(平成15)年の約44億5936万枚がピーク。2025(令和7)年用は当初で10億7000万枚と年々減っているのは寂しいが、素晴らしい文化として一定のラインで残っていくと思う。
デジタルで人が動かなくて済む分、モノの流通は活発化して荷物は増え、さまざまな事業者と競争している状況。物流も新しい付加価値のある配送サービスも必要になってきた。
一方で、金融事業はゆうちょアプリで送金も決済もでき、郵便局やATMにお金を下ろしに行かずに済む。金融相談のニーズはあるが、生成AIで、ある程度は的確な商品を割り出せてしまう。デジタル時代においては、三事業だけを主としたままで郵便局ネットワークの維持は難しい。
前島密翁により、近代国民国家の構築に向け、多くの情報を国民に平等に届ける郵便制度が始まり、国民の貯蓄で国力を高めることにも郵便局ネットワークが活用された。戦後も財政投融資で、ゆうちょとかんぽの資金が復興から高度成長期のインフラ整備等に活用されたが、これを支えたのも郵便局ネットワーク。このように郵便局ネットワークは国家の課題解決に貢献してきた。
これからのわが国が抱える課題に対し、郵便局を使って三事業に加えて何ができるのかを真剣に考えなければいけない時だ。言うまでもなく、人口減少・超少子高齢化への対応。各家庭から平均600㍍に郵便局と小学校があるといわれるが、小学校は統廃合で減っている。いまだに維持できている公的な拠点は郵便局だけだ。
若い人が減少していく中、超少子高齢社会の課題は、地方、過疎地だけでなく、都市部の方がむしろ深刻だ。全国から東京に出て生活してきた団塊ジュニア世代が後期高齢者になる2040年、都市部は高齢者ばかりで独居世帯が増える。2050年になると、半分は独居世帯といわれている。その時のために郵便局を活用し、地域を維持する形を今からつくらなければならない。
――高齢化とともに衰退している日本の農業が深刻のようですが。
いんどう相談役 農業も後継者がいない問題はあちらこちらで耳にする。ドローンで肥料や水をまき、大型機械で自動刈り取りをするなどAIやロボットを使って人手不足に対応している。
これからは田畑ではなく、近くの建物でシステムを操作し、農業を営む時代も近づいている。若者は田植えや稲刈りを嫌がり、都心に出てしまう方も多いが、スマホゲーム等は好きな方も多い。機械操作もゲーム感覚でできるようになっていけば、新しい形の農業をやりたい若者も増えてくる。
ただし、機械を操作する近場の〝拠点〟は必要。過疎地では農協も撤退しているところもある中、最後に残っているのは郵便局だが、1名局や2名局がほとんどで大変。局を拠点に農業関係者の方々と一緒に地域農業の活性化に組り組む形をつくれば、農業だけでなく、漁業も、観光等々も「地域産業活性化の拠点」に郵便局がなれると思う。
地域から強く、しなやかな国づくり
――まさに「リアル×デジタル」の〝コミュニティ・ハブ〟ですね。郵便局のオンライン診療も始まりました。全国展開に向けて資金等も課題の一つになりそうです。
いんどう相談役 その通り。「地域のデジタル拠点」に「人がいる郵便局」を活用することが大事だ。郵便局を活用して実証実験も始まっているオンライン診療もしかり。さまざまな地域でいろいろな産業のデジタル化が進んでいるが、必ず、関係者の方は〝拠点〟を求めている。
これまでの時代のように何事も分業していては人も資金も不足し、無駄が多い。直営局に限らず、簡易局も含め地域の拠点として、地域のビジネスと掛け合わせる形をつくれば拠点価値が高まる。
当然、医療も農業も資金繰りが課題だ。そうした時のためにも金融2社の上乗せ規制を撤廃して、ゆうちょやかんぽができるサービスの幅をもう少し拡大する形をつくり、収益を増やせるとよい。
郵便局窓口はデジタルが苦手な高齢者の方々や、役場より身近な地域の「何でも相談窓口」として機能できると理想的。スマホ一つで決済できる時代にあって、郵便局に入る取扱手数料は減る一方だが、郵便局を、国を守る、地域を守る拠点として位置付け、財政支援措置も講じるべきだと思う。地域を守るための〝拠点〟代だ。
――郵政民営化法の見直しも進められています。3社体制でなくても変革はできるものでしょうか。
いんどう相談役 4社、3社と数字の議論になっているようにも見えるが、今の時代に合わせて法律の中身を見直さなければ郵政事業が持たないということだ。窓口がこまやかにニーズを拾い、サービス・商品開発の起点になれるグループ体制にしなければ、総体として発展できないのはデジタル時代を迎えたためだ。
窓口の郵便局を中心とする体制とし、日本郵便のもとに、ゆうちょ銀行とかんぽ生命が傘下にある方が金融の地域ニーズを掘り起こし、本来の郵便局らしいビジネスをやりやすくできると思う。
アイリスオーヤマの大山健太郎会長とお話しする機会があったが、デジタル時代は生活者目線の「ユーザーイン経営」が必要と言われていた。
郵政民営化以降、持ち株会社が郵便局、三事業にどういう役割を果たしてきたのか今一度検証した上で、国や地域を守る郵便局を拠点として立ち位置を確立するために、4社体制が最善に機能するのであればよいと思うが、そうでなかったとしたら、それぞれの立場を超えてでも3社化を考えるべきではないだろうか。
――金融はどのような変化が求められますか。
いんどう相談役 金融サービスもいろいろなAIが登場し、リアルタイム情報を使ったビジネスが当たり前になってくる。自動運転の事故も責任を負うのが誰かが問題視される時代にあって、リアルタイムデータを活用した新しい保険商品のニーズも出てくるのではないか。インバウンドで都市部の郵便局にも多くの外国人が来客されるが、局窓口の存在はおそらく非常にありがたいと思う。
都市部は郵便局には三事業だけでなく、地域を支える、例えば、独居世帯を支える拠点としての役割などを考えて推進していただきたい。そうした観点から例えば、23区の高齢者層、特に独居世帯の分布図を見て、郵便局の適正配置を考えた方がよいのかもしれない。
高齢者の「おひとりさまビジネス」のニーズも高まっている。自分が亡くなった時に相続人になる可能性のある人に、どういう手続きをしてもらえばよいか分からず、税務署等でたらい回しにされることで悩む方も多い。
相続診断士という相続のニーズに応える任意の資格取得を推進している団体も出てきているが、局長や社員の皆さんがその資格を持てば郵便局も直接相談を受けたり、紹介したりできるようになる。町内会などでも終活セミナー等をやっているが、町内会に行きづらい方や都市部のマンションで町内会がなかったりもする。窓口のある拠点価値を高めていただきたい。
――奥能登が大雨被害にも見舞われ、現地の方々は大変なご苦労をされていると思いますが、郵便局の防災拠点としての価値をどうお考えですか。
いんどう相談役 被災された方々に心からお見舞いを申し上げたい。コミュニティーの危機といわれる中で、防災拠点としてもコミュニティーを維持する郵便局を残さなければいけない。避難後の支え合うコミュニティーが大切だ。
災害時に郵便局長や自治会長の皆さんが地域の方々の顔を知って動いてくださっている。しかし、拠点であっても被災は免れない。能登でも全壊した郵便局もあったと聞いている。
防災も復旧もデジタルだけでは解決できないが、デジタル庁にいた時、データを分析して対策を考えたことがあった。例えば、この程度の量の雨が降れば地滑りが起きる、などの予想データだ。行政が持つそうした情報を住民の方にもオープンにすれば、事前に一定程度の的確な対策が打てる。
しかし、公開は地価にも影響するため、産業界の反対は否めない。個人的にはオープンにすべきではないかと思う。「人の命」と「産業」のどちらが大切かといえば、〝命〟あってこそ産業も生み出せるためだ。
防災のためにも、マイナンバーカードを常に持っていくことを推奨していただきたい。避難所手続きも一瞬で終わる。避難住民は何世帯で何人か、必要な水や食料、毛布、介護用品等も必要か、スピード感を持って対応できる。
ただ、物資を運ぶ際にも拠点が必要。防災はスペースや機動力を持つ単マネ局が担いやすいこともあるが、エリマネ局も一定程度、地域の防災拠点の役目を確立できるとよいと思う。
――国会議員になられたら、どのような日本社会を創っていかれたいですか。座右の銘は。
いんどう相談役 国民の命や暮らし、生活を守ることが政治の目的。座右の銘は全特名古屋総会の時も話したが「一隅を照らす、これすなわち国宝なり」。もう一つは「諦めることなかれ」だ。
全国津々浦々に広がる約2万4000の郵便局ネットワークの拠点を生かすことで「誰一人取り残されない、人に優しい社会」を局長の方々、日本郵政グループと共に創り上げていきたい。