インタビュー 総務省 藤野 克 郵政行政部長

2023.02.15

 今国会で審議されるマイナンバーカードを郵便局で交付可能とする法改正や、来年度から実装に入る郵便局型キオスク端末を活用した住民サービス等々、郵便局の〝公共サービス〟が今年はさらに拠点価値を高めそうだ。一方、民営化以降、残された課題もある。総務省の藤野克郵政行政部長は「郵便局の特質は三つの窓口業務を住民の方々の身近な拠点で提供すること。サービスの担い手として3社の緊密な一体連携が要だ。体制整備が日本郵政グループの経営の最大のポイント」と指摘する。

マイナで高まる郵便局の拠点価値

 ――総務省の実証実験の成果として郵便局の「リアル×デジタル」の動きが進展しそうです。
 藤野郵政行政部長 昨年9月から石川県加賀市(5局)、神奈川県小田原市(5局)、青森県五所川原市(5局)で2021(令和3)年度補正予算で「郵便局型マイナンバーカード利用端末」(郵便局型キオスク端末)などの実証実験を行った。
 コンパクトで操作が簡便な「郵便局型マイナンバーカード利用端末」は市町村が低コストで導入でき、住民の方々からも身近な郵便局で住民票の写し等を簡便に受け取ることができると好評。来年度から郵便局型キオスク端末を活用した住民サービスが実装段階に入る。自治行政局が補助金でサポートしてくれる上に、自治財政局の理解をいただき、特別交付税措置で市町村と郵便局を後押しすることになった。
 キオスク端末の重要なポイントは二つある。一つは、導入しやすい端末を使うこと。今は全国500から600局で自治体証明書交付を実施中だが、これをもっと拡大できるようになる。もう一つは、郵便局の公共サービス事務が、マイナンバーカードを使う簡便で効率的な「デジタル」サービスになる。局長や社員の「リアル」なサポートと簡便な端末による「デジタル」のサービスとが住民に身近な郵便局で〝融合〟する。
 郵便局は、地域に貢献し、信頼される事業体として非常に重要な立ち位置にある。この位置付けをさらに向上させるべく、昨秋から情報通信審議会郵政政策部会(米山高生部会長)の審議を再開していただいた。
 郵政事業には多くの組織、多くの方々が関わるが、皆で同じ方向に向けて力を合わせていくものを提言していただきたいと考えた。その大きなポイントとなるのが〝公共サービス〟だ。年末の中間報告を経て、今夏、答申をいただくことになっている。郵政政策部会では前向きなさまざまなご指摘をいただいており、これを出発点として、いろいろな取り組みを拡大していきたい。

 ――マイナカードの郵便局での交付事務の可能性は。
 藤野郵政行政部長 マイナンバーカード普及は自治行政局にとっても大きな命題。そのために郵便局でさまざまできることを考えようということで郵政行政部と一緒に議論していただいて、共管の郵便局事務取扱法の改正を検討することにした。証明書交付も簡便にできるマイナカードを、郵便局で申請と交付ができるように、法改正を今通常国会で提案すべく総務省で検討中だ。
 これまで、マイナカードの申請サポートを郵便局で進めていただいているが、さらに、受け取りを市役所に出向かなくてもできるようにしようというのが検討している法改正の内容だ。申請者の本人確認を含めた全ての手続きが郵便局で完結するようにすれば、住民の方の利便性は格段に向上する。
 郵便局が、市町村とこれまで以上に連携し、住民の日常生活にさらに身近に寄り添える〝公共サービス〟の拠点価値を高めることになれば、郵便局の公共的な役割についての住民の認知度が飛躍的に上がり、その信頼感がさらに高まるだろう。
 ただ、制度的にマイナカードの郵便局での申請・交付が可能になっても、市町村と郵便局とが連携を取らなければこの取り組みは広がらない。実際のプレーヤーが周囲の理解を得ながら意欲的に進めていただくことが重要で、そのための連携に向けて、話し合いを始めている。

事業3社の〝一体連携〟が経営の要

 ――11年前、改正郵政民営化法で4社体制になったのは大きな成果といわれましたが、今もお客さまの眼からは郵便局は一つの会社。現状の体制のままで日本郵政グループは持続可能といえるのですか。
 藤野郵政行政部長 郵便局の特質は郵便・貯金(銀行)・保険の三つの窓口業務を住民の方々の身近な拠点で提供することにある。サービスの担い手として、郵便局、ゆうちょ銀行、かんぽ生命の緊密な連携が要。問題の本質は、郵便局と金融2社がしっかりと連携できているかだ。そのための体制構築について、日本郵政グループでも経営の最大のポイントとして取り組んでおられる。
 先般、柘植芳文総務副大臣のフランスの「ラ・ポスト」の視察に随行した。ラ・ポストでも銀行は子会社であり、別会社だが、銀行サービスを含めて郵便局業務は全体で一体的に行っているということだった。関係会社間でよく連携して利用者の利便向上を図ることが重要なのは、日本でも同じだと考えている。
 かんぽ生命の営業立て直しでも最も大事なことは、かんぽ生命と郵便局の相互信頼と連携だ。経営陣の方々でも問題意識を持って取り組んでいただいている。

 ――郵政事業のユニバーサルサービスコストは交付金立法で守られていますが、永続性の観点からNTTのように国民や国の支援を検討される可能性はありますか。
 藤野郵政行政部長 郵便局の基礎的費用を賄っていく上で、ステークホルダーでこれを支えようという交付金の制度には非常に意義がある。当時、NTTの電話役務に関するユニバーサルサービス交付金制度(電気通信事業法)を参考に、郵便局の維持に必要な最低限度の費用を関係事業者から拠出する制度がつくられた。NTTの制度も国が直接支援しているのではなく、広くステークホルダーでユニバーサルサービスを支えていこうというもの。
 交付金は、郵政管理・支援機構で関連費用を精査した上で例年11月に申請され、総務省が認可することになっている。来年度の交付金は、過去最高額の3000億円となっていたところ、これで必要な費用が十分カバーできているかなどを精査して、1月31日に認可を行った。

 ――万国郵便連合(UPU)の臨時大会議が秋に開催される予定ですが、世界的にも物流の変化が強烈なことを受けてですか。
 藤野郵政行政部長 郵政事業体ではない物流事業者が世界の市場で活躍されており、これとどう連携していくか、UPUの開放という言い方がされているが、それがUPUの大きな課題の一つで、臨時大会議に向けての大きなトピックスとなる。
 目時政彦UPU事務局長に1月にベルンでお会いしたが、事務局長もさまざまなステークホルダーとの連携について非常に意欲的。税関との連携について、日本でイベントの開催を予定されており、総務省でも全面的に協力していきたい。