インタビュー 全国郵便局長会 遠藤一朗副会長

2022.09.18

 全国郵便局長会(末武晃会長)の遠藤一朗副会長(東海地方会会長/岐阜県:牛道)は、第26回参議院議員通常選挙を振り返り、「地域貢献活動やコミュニケーションにしっかりと取り組むことが大切」と強調する。一方、金融営業に対する現場の意見として「やはり、三事業をメインに収益を上げていかなければ将来像など描けない。新規事業は重要だが、三事業にプラスアルファする位置付けでどんどんトライし、駄目だったら次に進める柔軟な姿勢が望まれる。危機感を全員で共有し、営業環境を改めなければ永遠に反転などできない」と訴える。

三事業に活を!新規事業は柔軟に

 ――すさまじい逆風の中で参議院選挙を終えられた感想をお聞かせください。
 遠藤副会長 郵政にとって壮絶極まる逆風とコロナ感染が吹き荒れた中で、41万4371人もの方が「長谷川ひではる」と書いてくださった。全国の局長、夫人会、OB会、関係の皆さま等、オール郵政の旗の下、ご支援いただいた方々に心から感謝申し上げたい。
 日頃からの地域貢献活動やコミュニケーションにしっかり取り組むことがいかに大切かを改めて感じた参院選だった。3年後、6年後に向けて活動を継続していく必要がある。

 ――地方創生の取り組みで印象に残るものをお教えください。
 遠藤副会長 自治体との関係では、岐阜県東美濃6市1町と広域包括連携協定を締結した。具体的な取り組みとしては、岐阜県飛騨地区会では飛騨市の東茂住局が薬局チェーンと連携し、食品や生活用品を局内で販売するほか、地区会内局が地元3市1村の観光協会と連携し、社員作成の観光ガイドブックを東京、大阪、名古屋など全国1277局で配布中だ。静岡県藤枝市内の3局は市民にスマートフォンやアプリの使い方を教える無料サービスを実施している。
 郵便局が行うスポーツというと、お年寄り向けのゲートボール大会が主流だが、私の地元では小学生バレーボール大会を継続的に開催し、お子さんやそのご家族からとても喜ばれており、これも地域活性化策の一つだと思う。
 包括事務受託は三重県桑名市など都市部でも進んでいるが、自治体、住民の方々、郵便局の3者に極めて有益な施策なため、しっかり進めていただきたい。
 チャンスを逃さないよう局長は常に自治体や地元議員の先生方とコミュニケーションを深める必要がある。普段からお付き合いしていないのに、こちらの都合が良いときだけ声を掛けても信頼関係は生まれない。
 国会議員の先生や地方議会の議員さんたちは「お客さまから地域内でこんなことに困っていると聞いた」等、情報提供を望んでいる。お客さまからの地域の課題を市議会議員の方に伝えたところ、市議会での質問につながったこともある。

 ――新規ビジネスをもっと強化すべきではないのですか。
 遠藤副会長 新規ビジネスと言葉で表現するのはたやすいが、それで一挙に日本郵便の収益を押し上げることは難しい。やはり、郵便・貯金・保険の三事業をメインに収益を上げていかなければ郵便局の将来像は描けない。
 新規ビジネスは重要だが、あくまでも三事業を中心にプラスアルファとの位置付けで、どんどんトライし、駄目なら次に進めるくらいの柔軟な姿勢で取り組むべき。慎重になり過ぎていて、やる前からストップがかかることが多いようだ。
 営業の取り組みは、保険もしっかりと取り組まなければならないが、今、問題なのは貯金。定新や純増等も推進できなくなり、投資信託を取り扱える局はごく一部。多くの貯金担当副統括局長や副部会長は的確な指示が出せず悩んでいる。貯金と保険を金融という一くくりで捉え両方を担わせた上で、その代わり、地方創生や新規ビジネスを担当する専門の役職を作った方がよいかもしれない。

営業現場の重い空気払いたい

 ――営業について、まだ現場が活気づけないとの声も耳にします。
 遠藤副会長 消費者(保険加入者)保護はもちろん大切だが、何かあったときの証拠作りに力を入れ過ぎているような印象。加入を考えるお客さまも、手続きに1時間もかかるなら郵便局で保険は入らない、となる。郵便局の保険の原点である「簡易」さが、「難易保険」になったと言わざるを得ない状況だ。
 会社にお願いしたいのは、営業できる環境を整えていただくことだ。二度と不祥事を発生させないことはもちろんだが、他の生保会社並みの規制にとどめなければ、いつまでたっても営業推進など絵に描いた餅になる。
 苦労して新規契約を獲得してくれた社員に「頑張ってくれてありがとう」の声掛けもなく、記入漏れなどを指摘し「違反じゃないのか」「こんなことできないだろう」と叱責するだけでは社員は何もしなくなる。社内にはそんな空気が漂っている。
 営業好きな社員はやってくれているが、その他の社員の皆さんにも動いてもらえるようにしなければいけない。皆、頭ではやらなければいけないと分かっているし、本音はやりたいと思っているが、そのような環境になっていない。営業し収益を上げないと会社が維持できないとの危機感を全員で共有し、改めていかなければ永遠に反転攻勢などできないと思う。

 ――以前、「旧特定局長」の名称が残る〝全特〟に誇りを持ちたいと言われていました。
 遠藤副会長 前島密翁の思いを受け、局舎を提供しながら地域を守ってきたのが全特という組織だが、さまざまな誤解も多いと思う。会社のように給与をもらっているのであれば、上司の命令に従わなければいけないが、局長会はそういうものではない。多様性を認めないと組織は衰退し、持続できない。サステナブル(持続可能性)とダイバーシティ(多様性)の二つが重要だ。
 さまざまな経歴を有する多種多様な考え方を持つ人材が、互いの意見を自由に言い合って民主的に物事を決め、それをしっかり守る。自らの意見をしっかりと発言できる組織にしていかなければならない。

 ――全国の会員の方々に特に伝えたいことはありますか。
 遠藤副会長 〝犯罪撲滅〟を肝に銘じなければならない。犯罪だけでなく、重大なコンプライアンス違反も同様だ。指導すべき立場の人間が犯罪等を起こせば組織は持たない。郵便局長はプライドを持つべきで、仕事上だけでなく、個人生活でも後ろ指を指されるようなことがあってはならない。その上で、民主的に仲間の力を結集し、将来に進まなければ郵政事業がもたない。
 人口減少が続く日本に大切なことは、地域の安心・安全の拠点として郵便局を残すこと。郵便局ネットワークの将来像を考えることは、会社の将来だけでなく、日本の将来も左右する大切だ。全特も会社も、もっと本気になって考えなければならない。
 会社が経営危機を脱するためには、収益を上げる必要があるが、短期的な見方ではなく、現場目線の率直な提言を取り上げていくべきだと思う。地域貢献活動の中、見えてくる地域の課題解決に取り組むことは社会全体を良くすることにつながる。またそれが日本郵政グループにとって持続可能な道を拓くことであり、使命そのものだ。