インタビュー 万国郵便連合(UPU)次期事務局長 目時政彦日本郵便常務執行役員

2021.10.18

 2022(令和4)年1月1日から万国郵便連合(UPU)国際事務局長を務める日本郵便の目時政彦常務執行役員は9月8日、グループインタビューに応じ、「郵便ネットワークを守り、質を高めるためには先進国と途上国の金融含む格差解消が不可欠。先端技術を国情に合った形で提供・運営できるようUPU内にシンクタンク機能を持たせる。災害発生時に速やかに郵便を復旧できるリスクマネジメント拡充を目指す」と明確に打ち出した。福島県内の二本松局長も経験し、切手を集め、郵便局アルバイトも体験した目時次期UPU事務局長は「192カ国の加盟国と共に歴史ある世界の社会インフラを発展させ、生活に密着する文化、社会、経済への貢献が事務局長の役目」と強調した。

UPUにシンクタンク機能

 
 ――8月のUPU大会議と事務局長選を経た展望を教えてください。

 目時次期事務局長 多くの加盟国の方々と対話を重ね、①新ビジネス機会提供を追求②SDGs(持続可能な開発目標)に貢献③長期安定するUPU運営を確立④加盟国と相互コミュニケーションによる調和を強める――の4公約に共感を得ていただいた。デジタル化により全世界で郵便は減少の一途をたどる。郵便事業は収益性と公益性を同時に満たさなくてはならないが、政府支援が難しい実態は共通認識。各国とも郵便の経営戦略に悩んでいる。世界にくまなく郵便・金融サービスをお届けするための金融包摂の必要性を訴えてきたが、UPUと加盟国との良好な関係維持、効率的に国際事務局を運営する日頃の取り組みも重要だ。
 唯一無二の物理的な郵便ネットワークを守り、質を高めるには先進国と途上国の格差解消が不可欠。そのために①先端技術を国情に合った形で提供・運営できるようUPU内にシンクタンク機能を持たせる②災害が発生時に速やかに郵便ネットワークを復旧できるリスクマネジメントの拡充――を目指す。先進国と途上国の調和を日本は先導したが、中間的なロードマップを割り出し、途上国が追い付いていける形を作らなければならない。eコマースに関連し、国際郵便の統合化も進むが、実務的な検討を加速したい。解決のためにもUPUにノウハウを早く提供できるシンクタンクを設けたい。

 ――シンクタンクはUPU加盟国だけでなく、IATA(国際航空運送協会)、ICAO(国際民間航空機関)、WCO(世界税関機構)等、他の国際機関とも協調する形ですか。
 目時次期事務局長 いくつかの機関のトップの方と話したが、ポジティブに捉える国と、途上国に安価でノウハウを提供することに疑問を呈す国もあった。日本企業の方から内々に協力してもよいと話も頂いている。国際機関からも資金だけでなく、人的なノウハウも提供いただき、組み立てたい。初の機能を走りながら考えたい。
 ――シンクタンク機能はUPU内に作るのですか。災害時復旧リスクマネジメント拡充のイメージは。
 目時次期事務局長 専門的な方も招き、私の直属か、UPUに近い組織にユニットを作りたい。災害資金拡充は日本政府に依頼する。UPU自身の基金もあり、他国と相談し、効率的な運用が図りたい。UPUの技術協力の運用の目詰まりを充実したもの、速攻でできるものにしていきたい。
 ――国連専門機関のトップに日本人が就くのは2年超ぶり。コロナ危機をどう乗り越えますか。
 目時次期事務局長 中立・公正に透明性を守り、日本人を選んで良かったと思われるよう責任を持ち、取り組みたい。コロナで国際郵便は壊滅的な打撃を受けた国も多い。飛行機等の運賃が上がり過ぎ、商売が大変な危機に瀕している。eコマースの潮流に乗るために、郵便事業体はデジタル化を進めるべきで、シンクタンクを役に立てたい。各国の訓練やトレーニングは防災関係の需要が高い。リモートコミュニケーションが発達すればできる。コロナでは配送ロボットや医薬品の郵便配送でも規制緩和が進んだ。新しいチャンスが郵便事業体にもあると加盟国に申し上げてきた。

 ――金融包摂に言及されたが、UPU各国の問題意識は。日本は何に貢献できると考えますか。
 目時次期事務局長 郵便金融業務はもともと送金だけだったが、為替から始まり、デジタル化の影響で端末等が作れるようになった。途上国が送金業務を適切に利用できる環境と日本のように現金が取り扱える郵便局を各地に配置するノウハウを求めている。日本の経験値が生きる。通帳も持てない方の支払い手段として、最も多い公的な機関の郵便局を活用する考えで進んでいる。
 ――印象に残った仕事は。
 目時次期事務局長 タイの書記官時に責任を持たせていただき、タイ政府当局と交渉でき、日本の技術プロジェクトを進め、貢献できたこと。UPU絡みでは、パソコン(リチウム電池が搭載された電子機器)がEMSで送れなかったことに問題意識を持ち、仲間と各国を説得した。数年かかったが、非常に達成感があり、EMSが増えて会社収益にも貢献できた。
 ――日本郵便がUPU開発プロジェクトに初参加し、カンボジアの郵便業務オペレーション改革に挑むが、日本型郵便インフラの強みとは。デジタル化が進む中、〝人と人〟とを結ぶ郵便の力や魅力とは。
 目時次期事務局長 郵便局が培ってきたヒューマンに配したオペレーション知識に基づく機械化と近代化が日本型インフラの強みだ。機械を入れてもさらに進展できる。導入したミャンマーは窓口カウンターを変えただけで良くなった事例も聞く。郵便局は公益的な場所。私も福島県の二本松市で局長を経験し、郵便局が業務だけではなく、地域のまとまりの場としても有用と理解している。
 単に郵便事業だけでなく、「郵便局ネットワーク」が大事だが、国によってはすでに郵便局をなくし、物流会社のように近代化し、郵便局を持ちたくてもアフリカなどは個別配達を行うことが厳しく、郵便局留めがせいぜいの国などさまざま。そうした国では郵便局が持てるかも実情に合わせて考えるしかない。
   
 ――東日本大震災の体験をUPUにどう生かしますか。

 目時次期事務局長 被災地に郵便を届ける中で、郵便は物理的なものだけではなく、「人と人とのつながり」を確立し、つなぐ〝絆〟という話に感じ入った。各国に助けていただいたお礼の意味を込めて、災害・防災のファンドを日本からUPUに作った。郵便局がマニュアルを作り、人命第一のために「まず逃げなさい」と各国に伝授している。UPUにノウハウを蓄積し、必要なものを提供する。日本政府から引き続き資金を拠出いただけると聞く。プロジェクトはUPUでさらに進むだろう。
 ――大会議でUPU条約恒久化が承認された意義とは。
 目時次期事務局長 条約でも法制面は総務省・外務省、日本郵便は主にオペレーションの部門をやってきた。UPU条約は大会議ごとに全部改正し、改正しない部分も4年ごとに最初から検討しなければならなかった。条約改正の批准手続きを取る国にとっては大変な負担。法的に安定できるように改正を議論した。日本だけではなくて、先進国や国際事務局、UPUにとっても念願で、重要で価値のある改正だった。
 ――大会議では、医療や健康増進が郵便事業の役割も多くの国で共有されたようにも思えますが。
 目時次期事務局長 郵便事業で何ができるのか多面的に検討された。コロナ禍で昨年UPUが示した「Post4Health」では、郵便局ネットワークはもっと保健や健康に貢献できることにフランスなど各国も賛同した。下地ができて同じ方向で議論が進んだ。